オーストリア・ブルゲンラント州が生んだ、テロワールの語り部『MORIC』

はじめに生産者と過ごした特別な二日間

今回モリックの白ワインをネットショップにご用意するにあたり、実は特別な出会いがありました。

2026120日、輸入元のヘレンベルガーホーフさんが主催するメーカーズランチに参加させていただきました。会場は東京・JANU GRILLという素晴らしいレストラン。生産者のローラント・フェリッヒ氏ご本人はもちろん、奥様と娘さんも一緒にご来日されていました。

娘さんをその場にいた皆さんにご紹介されるフェリッヒ氏の表情がとても印象的で、大変期待して可愛がっていらっしゃる様子が伝わってきました。ワインだけでなく、家族への愛情も深い方だなと感じた瞬間でした。

ランチのお料理とのペアリングも大変楽しく、特に印象に残ったのが「牛蒡と生姜のスープ トリュフ」との組み合わせ。スープの土っぽさとトリュフの香りが、フルミント&ハーシュレヴェリュのミネラル感と見事に寄り添い、思わず唸るような相性でした。フェリッヒ氏は「日本が大好き」と何度もおっしゃっており、その言葉の温かさも心に残っています。

翌日は、より専門的なテイスティングセミナーにも参加しました。モリックのワインを体系的に学ぶ貴重な機会で、赤・白それぞれの畑違いのキュヴェを比較しながら深く理解することができました。

 

セミナーで試飲した白ワインの中には、トカイの一級畑名入りのフルミント「GGörbe)」「TTúróska)」「HHasznos)」という3種類もあり、どれも素晴らしい出来栄え。ただ各¥17,000と高額。そして本来のポテンシャルを発揮するには後数年間の熟成が欲しいなと感じました。

赤のブラウフレンキッシュも¥27,000¥35,000と高額で、香りも味わいも非常に深く、本当に凄いワインだと実感しました。しかし同様に、今飲むには早すぎるそう判断し、今回の販売は見送ることにしました。

そこで今回ネットショップにご用意したのが、モリックの哲学と品質をしっかり体感していただけながら、比較的手が届きやすい価格帯の白ワイン3アイテムです。実際に生産者にお会いし、セミナーで学び、ペアリングまで体験した上で「今飲んでいただける」と確信を持ってお勧めできる一本たちです。

生産者紹介

MORIC(モリック)

その名に刻まれた、大地の記憶。

オーストリアのワインと聞いて、何を思い浮かべますか?グリューナー・フェルトリーナーの爽やかな辛口白、あるいはリースリングの繊細な酸——そう答える方が多いかもしれません。しかし今、世界のワイン愛好家たちがこの国に注目する理由はもうひとつあります。

それが、醸造家ローラント・フェリッヒ(Roland Velich)と、彼が率いるワイナリー「MORIC(モリック)」の存在です。

ジャンシス・ロビンソンMWは彼を「世界最高のブラウフレンキッシュ生産者」と称し、James Sucklingは世界のトップ9ワイナリーにMoricを選出。2023年にはオーストリア最権威のワイン誌Falstaff「最優秀醸造家賞」を受賞しました。

しかしフェリッヒの物語は、単なるサクセスストーリーではありません。その名前の由来から紐解くと、この醸造家が何を大切にし、何のためにワインを造っているのかが、よりくっきりと見えてきます。

MORIC」という名前の意味

これはハンガリー語の「名前(名)」です

Móric(モリック)」は、ハンガリー語の男性名です。苗字ではなく、日本で言えば「太郎」や「一郎」にあたるファーストネーム。ラテン語の「Mauritius(マウリティウス)」を語源とし、ヨーロッパ各地でさまざまな形に変化しながら広まりました。

ドイツ語・オーストリアでは「Moritz(モリッツ)」、フランス語では「Maurice(モーリス)」、英語では「Morris / Mauriceみんな同じ名前の言語違いです。ワイナリー名の英語表記「Moric」は、あえてハンガリー語のスペルを採用しています。

なぜハンガリー語の名前なのか

ここに、フェリッヒの深い思いが込められています。

現在のオーストリア・ブルゲンラント州は、1921年まではハンガリー王国の領土でした。第一次世界大戦後の国境再編によってオーストリアへ編入され、オーストリア最も新しい州として誕生した場所です。

つまりフェリッヒ家が何世代もワインを造ってきたその土地は、祖父の代まではハンガリーだったのです。ケルト、マジャール、オスマン帝国——幾多の民族と文化が交錯した歴史の十字路。その多層的なアイデンティティが、今もこの土地のワイン造りの中に深く響き渡っています。

あえてハンガリー語の名前「Móric」を冠することで、フェリッヒは無言でこう語っているのです。

「このワインの魂は、地図上の国境よりも、ずっと古い大地に根ざしている。」

ワイナリー名そのものが、彼の哲学の宣言なのです。

ローラント・フェリッヒという人物

スキーインストラクター、ディーラー、そしてワイン伝説へ

1963年、ブルゲンラント州アペトロン生まれ。代々続くワイン名家の出身でありながら、フェリッヒの経歴は異色です。大学では法律・政治学・哲学を学び、その後スキーインストラクターを経て、カジノのディーラーとして10年間働きました。

そのディーラー時代に貯めた資金を元手に、2001年、自分のワイナリーを立ち上げます。それが「Moric」プロジェクトの始まりでした。

白ワインの名家から、赤への挑戦へ

実はフェリッヒの家族は、もともと白ワインで知られる名家でした。兄のハインツ・フェリッヒと共に実家のワイナリー「Weingut Velich」を運営し、シャルドネ「Tiglat」でオーストリア最高峰の白ワイン造り手として国際的な名声を確立していました。

しかしローラントの目は、別の場所へと向いていました。ブルゴーニュ、ローヌ、ピエモンテ、世界の偉大な赤ワインを飲むうちに、彼はある確信を深めていきます。「この土地には、世界に誇れる赤ワインを生む可能性がある」

その品種こそが、オーストリア固有の「ブラウフレンキッシュ」でした。

Blaufränkisch Unplugged」不介入という哲学

フェリッヒは自分のプロジェクトを、こんな言葉で表現しています。

Blaufränkisch Unplugged(ブラウフレンキッシュ・アンプラグド)」

「アンプラグド」とは、エレキギターをアンプから外してアコースティックで演奏すること。つまり「余計な機材(介入)を取り除いて、素の音(テロワール)を聴かせる」という意味です。

2001年当時のオーストリア赤ワイン市場は、新樽の影響を強く受けた濃縮・力強さのスタイルが主流でした。しかしフェリッヒはその真逆を行きます。

・天然酵母による自然発酵

・古木・低収量で凝縮したブドウ

・無清澄・最小限のろ過

・人為的な操作を徹底的に排除

「偉大なワインの本質は力強さではなく、テロワールを反映したエレガンスにある」 この信念のもと、ブルゴーニュのピノ・ノワールやピエモンテのネッビオーロに匹敵する、繊細で緻密な構造を持つワイン造りを追求しました。

国内では当初冷遇されたこのスタイルも、やがて世界が気づきます。2009年、「Neckenmarkt Alte Reben 2006」がオーストリアの赤ワインとして初めてロバート・パーカー誌で95点を獲得。2025年にはJames Suckling誌で「Lutzmannsburg Alte Reben 2023」が100点満点を獲得し、世界を驚かせました。

1000万年の記憶が宿る大地パノニア

モリックのワインを語る上で欠かせないのが、「パノニア」という概念です。

かつてヨーロッパを覆った内海「パノニア海」。1000万年前にその海底だったブルゲンラントの土壌には、豊富なミネラルを含む堆積物と、風が運んだ黄土(ローム)のステップが重なっています。西からの湿った風、南の熱気、北の寒冷な気流が交錯する複雑な気候。この唯一無二の環境が、ブドウに比類なき深みを与えます。

フェリッヒはこの大地の声を、そのままボトルに封じ込めることを使命としています。

白ワインへの回帰そして国境を越えた探求へ

赤ワインで世界の頂点に立ったフェリッヒですが、白ワインへの情熱は途切れることがありませんでした。ブルゲンラントの石灰質土壌で育てたグリューナー・フェルトリーナーやシャルドネで、ブルゴーニュを彷彿とさせる繊細な白ワインも造り続けています。

さらに2013年からは「Hidden Treasures(隠れた宝)」プロジェクトを始動。国境を越えてハンガリーへと活動を拡大し、長年忘れ去られてきたパノニア地方の土着品種の真価を掘り起こす旅を続けています。

「ブラウフレンキッシュと同様に、フルミントもパノニア文化の一部である」その信念のもと、ハンガリーの若き醸造家たちと手を組み、バラトン湖やトカイの火山性土壌が育む白ワインをプロデュース。かつて甘口の王として君臨したトカイを、辛口の新たな頂点へと導こうとしています。

「土地の声を、そのままグラスへ」

ワイナリー名「Moric」に込められたハンガリーのルーツへの敬意。「Blaufränkisch Unplugged」という不介入の哲学。そして1000万年の地層が育む唯一無二のテロワール。

フェリッヒのワインには、単なる美味しさを超えた「語るべきストーリー」があります。一口飲むたびに、その土地の歴史と文化が、グラスの向こうから静かに語りかけてくるような、そんな知的な深みを持つワインです。

実際にお会いし、セミナーで学び、ペアリングまで体験した上で、今回は「今すぐ美味しく飲んでいただける」白ワインを厳選してご用意しました。

オーストリア・ブルゲンラントの石灰質土壌が生む「Hausmarke Supernatural」、ハンガリー・バラトン湖の火山性土壌から生まれた「Balaton Riesling / Furmint」、そしてトカイの辛口革命を体現する「Tokaj Furmint & Hárslevelű」。

こちらの白ワイン3アイテムをネットショップにて販売中。ぜひお試しになってみてください。

ネットショップはこちら https://nektal.thebase.in